制作趣意書

視聴覚教材

「小笠原 登物語 —ハンセン病強制隔離に抗した人— 」(仮題)

制作趣意書

 私たちは縁あってハンセン病療養所の入所者の人たちと出遇い、その声にふれて交流をしながら、「強制隔離」に加担した教団の非違の歴史を学んでいます。

その学びの中から、小笠原 登医師(1888年~1970年)の名を知りました。

 

 国が、「らい予防法」(旧法)を制定し、ハンセン病患者の絶対隔離を強めた1931年、小笠原登は、「らいに関する三つの迷信」という論文を発表しました。そこでは、「ハンセン病は、不治の病ではない、遺伝ではない、強烈な伝染病ではない」と書きました。

 一方で、小笠原は、「らい予防法」に批判的なスタンスを取りながらも、京都帝国大学医学部付属病院・皮膚科特研主任という、公務員としての職務を果たさなければなりません。つまり自分の学説とは別に、「らい予防法」という法律は遵守しなければならなかったのです。

 その矛盾と葛藤の中から、小笠原登のひとつの抵抗が選択されます。

 それは、診察したハンセン病患者のカルテには、「らい」という病名を抜いて、「神経炎」、「皮膚炎」などと書くことでした。患者と家族を隔離から守るためにです。

 

 小笠原登は、戦争中は京大に勤める医師、戦後には国立豊橋病院に、その後は奄美和光園に勤務する国家公務員でした。だから、医師であるからには法的には、戦中、戦後の「無らい県」運動に率先して協力しなければならない立場にあったはずです。

 しかし、小笠原は科学者としての確信と、宗教的信念から、「無らい県」運動への積極的な協力を拒んだのです。国の指針とは相容れない自らの主張を堂々と表明しながら、「らい予防法」の枠内ギリギリのところにとどまり続け、「良心的非協力」を貫いたのです。

 つまり「一人になる」という生き方に徹した人なのです。

その小笠原登を生涯の師として仰いだ元厚生省官僚大谷藤郎さんは、国賠訴訟において原告・被告双方から証言を求められ、「一人になって」、隔離政策の過ちを訴えられました。そのことによって、小笠原登の願いが、真宗大谷派に帰ってきたのです。

 

 戦後の新憲法のもとでも、「らい予防法は」1996年まで生き続けました。「無らい県」運動にも私たちは無反省に協力してきたのです。法廃止以降は、「ハンセン病を正しく理解しよう」というスローガンを掲げた「啓蒙」活動が展開されます。しかし、それだけでは、ハンセン病問題を真に解決することはできなかったのです。取り返しのつかない人生被害を、その後も拡大してきてしまったのです。 

 このような情況のただ中にあるからこそ、隔離に抵抗し、患者と医療者との平等な関係を保ち続けてきた小笠原登の勇気と、それゆえの孤独を想わずにはおられません。

 とはいえ、小笠原登を「偶像化」したり、人権学習のお手本として「権威化」することにならないように心しなければなりません。

 

 小笠原登は真宗大谷派の僧侶でもありました。生まれ育った圓周寺では、かつて祖父の小笠原啓實が僧侶であり漢方の医師であったことからも、大きな影響を受けていることが分かります。

 この映画では、1996年に「らい予防法」が廃止されるはるか以前から、ハンセン病問題の本質を鋭く見抜いて、国の絶対隔離政策に抵抗してきた人が確かに存在したことを物語るとともに、いまの日本の現代社会においても、実は何も変わってはいない偏見と差別意識の根にあるものとは何なのかを、探りたいのです。

 いま、ハンセン病家族訴訟勝訴という大きな扉が開かれる中で、ハンセン病問題を知らない世代にも、小笠原登の事績に向き合うことをとおし、あらためてハンセン病隔離政策の本質を明らかにし、伝え、共に学び、ハンセン病問題の全面解決に向けて、あらたな一歩を踏み出したいと願っております。

 

 有り難いことに、企画の段階で、私たちの願いに呼応していただける映像作家の方々にお出会いすることができました。

 高橋一郎監督と、鵜久森典妙プロデューサーです。お二人はこれまでに、社会に問題提起するすぐれたドキュメンタリー作品を制作してこられました。

 『24,000年の方舟』 (原発の核廃棄物の実態映像)

 『もういいかい —ハンセン病と三つの法律—』 (絶対隔離政策を生んだ法律と、療養所の中で何が行われ入所者がどのような生活を送っていたのか、100年にわたるその歴史と真実を描いたドキュメンタリー作品)2012年制作。等々。

 あたかも本年は、小笠原 登の五十回忌法要に当たります。また、ハンセン病家族訴訟勝訴という、大きな節目の年であります。

 この時に、小笠原登の名に遇い、その事績を見聞してきた私たち有志は、ここにその生き方に学び、自由だらけのようで不自由な現代を生き抜くヒントを見出して、その大いなる志を引き継いでいきたいものです。

 ここに趣意書を広開して、映画制作にご賛同、ご協力をお願い申し上げます。

  

2019年12月12日

 

視聴覚教材「小笠原登物語」制作実行委員会  

呼びかけ人  小松裕子・玉光順正・戸次公正・小笠原英司

山内小夜子・蓑輪秀一・訓覇浩

事 務 局    三重県三重郡菰野町小島1276(訓覇)

                        TELFAX  059-396-013

                        E-mail be86@mub.biglobe.ne.jp

振替口座   ゆうちょ銀行 00840-5-137880

当座口座   ゆうちょ銀行 店名 〇八九 当座 0137880

         加入者名「小笠原登物語」制作実行委員会

        

● 「小笠原登物語」制作サポーター(賛同協力団体・賛同協力者)を募ります。

 サポーターになっていただいた方で、1万円以上のご寄付をいただいた方には、本

作品のDVD1本贈呈いたします。

○ 同じく、5万円以上のご寄付をいただいた方は、作品のエンドロールにお名前を掲

載いたします。

   サポーターなっていただける方は、お名前の公表の可否をお知らせください。

 

 

☆2019年時点の趣意書です。賛同者の方へのDVDの贈呈、エンドロールへのお名前掲載は締め切らせていただいております。